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コラム

切土・盛土とは?斜面の安定性について

高速道路 盛土

土砂崩れなどのニュースが報じられる際、道路沿いの切土や盛土といった人口壁が崩れる光景を目にする機会が多いと思います。国土の約75%を山地が占める日本では、起伏に富んだ土地を平坦にならし家屋や道路を建設する必要がありました。今回はそうした人口的に造成された斜面である切土と盛土について解説します。

 

切土・盛土とは?

切土_盛土_法面

切土とは、丘陵地など傾斜のある土地の土を切り取り、地面を平らにしたり低くしたりすることをいいます。

 

一方、盛土とは、傾斜のある土地に土砂を盛り、地面を平らにしたり高くすることをいいます。

 

切土や盛土でできた斜面のことを法面(のりめん)といいます。もっとも身近な例としては、道路わきの斜面です。コンクリートで固められている斜面を目にしたことがある方も多いと思います。

 

切土に比べ盛土は、もとの地盤の上に土砂を盛るため境界面がすべりやすくなっています。また、盛り上げた土の締固めが不十分だと、盛土自体の重さで崩壊が起こる恐れもあります。

斜面崩壊のメカニズム

斜面崩壊のメカニズム2

直線状のすべり

自然斜面で表層が風化しその下に硬い基盤層が残っている場合や、クイッククレイと呼ばれる鋭敏な粘土層(北欧諸国でよくみられる粘土で、揺さぶるだけで強度が著しく低下し、泥水状になる。)、海底のシルト層、液状化した砂層などに多く見られ、わずかな傾斜でも大規模なすべりが起こることが報告されています。

 

直線状の斜面崩壊では、すべり土塊は斜面に平行なため、すべりに抵抗する土の強度Rをすべりを起こそうとする力Sで割った比が安全率Fsとなります。

円弧すべり

崩壊斜面のすべり面が円弧状になる斜面崩壊を円弧すべりとよびます。厚い軟弱地盤上に盛土をすると、円弧すべりが生じやすいといわれています。

 

円弧すべりの場合、すべり土塊内での深さが一定でないため、安全率を算出するにはまず土塊を鉛直に分割します。分割した各部の底面のすべりに抵抗する力と、すべり土塊のすべりを起こそうとする力より安全率FSを算定します。円弧の中心と半径の設定によって安全率が異なるため、両条件を変えて何度か安全率の計算をし、そのうち最低の安全率Fsminを斜面のすべりに対する安全率と判断します。

斜面崩壊の要因

斜面崩壊は、崩壊を誘発する要因が大きくなるか、あるいは、崩壊に抵抗する要因が小さくなるかのいずれによって発生します。

 

斜面崩壊を誘発する要因の増加
  • 斜面上の荷重の増加
  • 側溝の掘削など、すべり面でのせん断応力(すべらせるように作用する力)の増加
  • 降雨による土の含水量増加に伴う土の単位体積重量の増加
  • 降雨による斜面内の水圧上昇
斜面崩壊に抵抗する要因の減少
  • 斜面の割れ目など、すべりに抵抗する面積の減少
  • 降雨により粘性土の含水量が増し、体積が膨張することによるせん断強度(すべりに抵抗する力)の減少
  • 間隙水圧の上昇により有効応力が減少したことによる摩擦抵抗力の減少
  • 液状化による土の摩擦強度の低下

こうした斜面崩壊の要因から、地震や降雨が斜面崩壊を引き起こす主な原因となることがわかります。

 

斜面崩壊の対策

切土や盛土といった斜面の安定性を保つには、斜面崩壊の要因を解消する必要があります。

 

斜面形状の変更
  • 斜面高の低減
  • 斜面角の低減
  • 階段斜面への変更
斜面崩壊対策_斜面形状の変更
斜面内の水の排水

斜面の土の含水量が増加すると単位体積重量が増し、斜面の安定性が低下するため、斜面内に水が入らないようにする、また、入ってしまった水を排水する工夫が必要です。切土や盛土の造成時には斜面内に排水設備を設けることで水がたまらないようにします。

 

斜面崩壊対策_斜面内の水の排水
押さえ盛土等の構築

すべりやすい斜面の末端部に盛土を行うことで、滑動力に抵抗する力を増加させます。

 

斜面崩壊対策_押さえ盛土
擁壁等の建設

切土や盛土の安定性を保つため、斜面にコンクリートブロックなどの擁壁を建設し、崩壊を防ぎます。

斜面崩壊対策_擁壁の設置

宅地造成及び特定盛土等規制法

2021年、静岡県熱海市で発生した盛土崩落を起因とする大規模な土石流災害を背景に、「宅地造成等規制法」が改正され、新たに「宅地造成及び特定盛土等規制法」が2023年5月26日から施行されています。それまで一律的な規制のなかった盛土に対し、包括的な法規制が敷かれ、安全な盛土の造成と維持を図っています。

 

新たな法律では、盛土等による被害リスクのあるエリアを規制区域に指定し、また、切土や盛土の造成に際して、一定の高さや面積以上の工事には都道府県知事等の許可を必要としています。

 

さいごに

近年、頻発する豪雨により、度々土砂崩れを起こす切土や盛土が問題になっていますが、盛土規制法が制定されたことで少しずつ改善されています。しかし、現存する盛土は数十年前につくられたものが大半です。自分の住む地域の盛土は安全か、ハザードマップで確認することも重要です。

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