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コラム

地下水と地盤沈下

地下水と地盤沈下

高度経済成長期、日本の大都市圏では地下水の過剰揚水による地盤沈下が相次いで発生しました。今回は、地下水の汲み上げと地盤沈下の関係性について詳しく見ていきます。

 

地下水の汲み上げ

工業用水の汲み上げ

高度経済成長期、工業用水の需要急増

戦後、高度経済成長期の日本では、急速に経済が発展し、技術革新や新産業の勃興など目まぐるしいスピードで産業が発展していきました。この産業の成長に伴い必要となったのが、大量の工業用水でした。製造業では、機械の冷却や洗浄を目的とし、大量の水が必要となります。水道水を使用すると費用がかさむため、大量の地下水を汲み上げて使用していました。

地下水位低下に伴う地盤沈下

工業用水として大量の地下水を汲み上げた結果、高度経済成長期には東京や名古屋、大阪などの都市圏で地盤沈下が相次いで発生し、問題になりました。東京ではこの時期、1年間に最大23mを超える地盤沈下を引き起こした地点もあり、地下水の汲み上げが問題視されるようになりました(引用:東京都環境局)。

大阪駅に見る地盤沈下の名残り

なかでも地盤沈下が顕著だったのは、大阪駅でした。現在の大阪駅構内には3段から5段の短い階段やスロープがそこかしこで見受けられますが、これらは高度経済成長期に大阪駅の至る地点で地盤沈下が発生していたことを物語るものです。

 

大阪駅のある梅田は、その語源を「埋め田」というように、泥層から成っています。駅建設当時、構造物を支えるために基礎杭が打たれましたが、これら基礎杭のうち、強固な地層である支持層まで到達していないものが数多く存在していました。その結果、杭が支持層まで達していない地点では大きな地盤沈下が発生し、その他の地点では地盤沈下が抑えられたのです

 

こうした地盤沈下の被害を受け、大阪駅では1958年から1964年まで、計245本の杭を交換するという大工事が実施されました。この改修工事では、直径1.2mの穴に作業員が入り、スコップで土砂をかき出しながら地中25mまで掘り進めたということです。そうして掘削した穴にコンクリートを流し込み杭を築造していきました。(引用:一般社団法人 建設コンサルタンツ協会

地下水の汲み上げ規制

都市部で相次ぐ地盤沈下を受け、1956年に「工業用水法」が制定、さらに1962年には「建築物用地下水の採取の規制に関する法律」が制定され、以後、地下水の過剰揚水は減少していきました。汲み上げ規制が敷かれたことで、地下水は徐々に回復しきており、JR上野駅や東京駅では地下水位の上昇に伴う水圧増大により、床の損傷や将来的には駅舎が浮かび上がる危険性が懸念され、対策工事がされるなど、一部地域においては地下水位上昇による予期せぬ事態も発生しています。

なぜ地下水を汲み上げると地盤沈下が起こるのか?

土の種類

土を粒子の大きさで分類すると石、礫、砂、シルト、粘土に分けられます。さらに、シルトと粘土は細粒分と呼ばれ、細粒分が50%以下の土を粗粒土、50%以上の土を細粒土と呼びます。

粒径による土の分類図

土の間隙率

地下水イメージ

間隙率とは、土全体の体積に対する間隙(すき間)の割合です。土は主に土粒子から成っていますが、土粒子同士の間には間隙があり、それを埋めているのが水と空気です。間隙率は粒子が細かいほど高く、多くの水を含むことができます。

 

上のイラストのような地層があるとしましょう。礫層から地下水を汲み上げすぎると、礫層内の水圧が低下し、その上にある泥層に含まれる水が水圧の低下した礫層へと滲み出します。泥層から水が滲み出せば、その分だけ泥層の体積は減り、収縮します。そうして引き起こされるのが地盤沈下です。

 

粘土層の収縮によって発生した地盤沈下はもとに戻りません。仮に地下水位が再び上昇したとしても、礫層に地下水は流れますが、泥層はもとに戻らず体積は減少したままとなります。

さいごに

高度経済成長期の地下水汲み上げによる地盤沈下は、当時の日本が経済成長を優先するあまり、環境への影響を十分に考慮していなかったことを物語っています。その後の法整備により地下水の採取が規制されたことで、地下水位は回復傾向にあります。今後は、経済発展と環境保全のバランスを取りながら、持続可能な自然資源の利用方法を模索していく必要があります。

 

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