前回(埋戻し工事の重要性と工法の種類)、前々回(杭抜き工事の必要性と工法の種類)のコラムでは、杭抜き工事と埋戻し工事について解説しました。今回は構造物を支える杭打ち工事について、その必要性と代表的な工法を紹介していきます。
なぜ杭を打つのか―直接基礎と杭基礎
国土の約7割を山地が占める日本。また、全国的に広く軟弱地盤が分布しているのが特徴です。明治以降、日本の人口は爆発的に増加し、それに伴い住宅、商業施設、工業施設など、建築物の需要が急増します。もともと平地の少ない日本では、限られた土地、それも軟弱地盤上に建築物を建てなくてはなりませんでした。
そのような状況下で発展してきたのが日本の基礎工事です。ゆるい地盤の上に建築物を建設する際、建築物の重量を十分に支えられるよう、地盤に杭基礎で土台を造ります。基礎には直接基礎と杭基礎がありますが、直接基礎は地盤が硬い場合に用いられる基礎の種類です。地盤が十分な強度を有しているため、地盤に直接フーチング(コンクリートの台)を置き、その上に建築物を建てるというシンプルな構造です。一方、杭基礎とは、軟弱地盤上に建築物を建設する際、地盤に杭を打つことでその支持力によって建築物を支える基礎の種類です。
場所打ち杭工法の種類
杭打ち工法の種類は場所打ち杭用の工法と既製杭用の工法に大きく二分されます。場所打ち杭とは、建設現場で掘削した孔の中にコンクリートを流し込むことで、その場で杭を製造、打設する杭の種類です。場所打ち杭と既製杭についてはこちらのコラム(杭とは?目的や素材、支持方法の違いについて)で解説しています。
オールケーシング工法
オールケーシング工法は、杭全長にわたってケーシング(掘削時に孔壁崩壊などを防ぐために用いる筒状の鋼管)を使用して場所打ち杭を築造する工法です。
全周回転掘削機でケーシングを地盤に回転貫入し、ハンマーグラブ(土砂の掘削などに用いられる機材。先端部が開閉する。)でケーシング内の土を掘削、排土しながら、所定深度まで掘り進めます。所定深度に達したら、ケーシング内に鉄筋かごを設置し、コンクリートを流し込みます。その後、ケーシングを引き上げ、コンクリートが固化したら完了です。
オールケーシング工法はケーシングを建て込むために全周回転掘削機が必要ですが、杭全長にわたってケーシングで保護するため、リバース工法やアースドリル工法のような安定液の管理は不要です。
リバース工法
リバース工法は、掘削した土砂をサクションポンプなどを用いて吸い上げ、逆循環(リバースサーキュレーション)させる工法です。
まず、口元管/スタンドパイプ(表層部の土の崩壊を防ぐためのケーシング)を建て込みハンマーグラブで掘削します。その後、回転ビット/ドリルビット(ドリル先端部に取り付けられる掘削するための機材)を取り付けたリバース掘削機を使用して所定深度まで掘削します。掘削時に水を注入し、孔内水位を周辺の地下水位より高く保つことで、水圧の働きにより孔壁を保護します。
回転ビットで掘削した土砂は孔内水とともにサクションポンプなどで吸い上げ、地上に排出します。地上に排出された掘削土を含む泥水は、タンクで泥水と土砂に分離し、分離した泥水を再度孔内へ送り込みます。
このように泥水を循環させながら所定深度まで掘削が完了したら、鉄筋かごを取り付け、トレミー管を孔内へ挿入します。トレミー管で孔内下部からコンクリートを注入し、地表部まで充填することで場所打ち杭を築造します。
リバース工法は、杭径、杭長の大きな杭打ち工事に使用できる上、特殊ビットを取り付けることで岩盤などの硬い地盤の掘削も可能な工法です。
アースドリル工法
アースドリル工法は、アースドリル掘削機を用いて地盤を掘削後、コンクリートを流し込み杭を築造する工法です。
まず口元管/スタンドパイプ(ケーシング)を建て込み、表層部の孔壁を保護します。次に安定液を注入しながら、ドリリングバケット(先端に刃の付いたバケット。掘削土をバケットに収納し、地上に排出する。)を回転させて地盤を掘削します。安定液には一般にベントナイト液が使用されます。ベントナイト液は粘度が高いことが特徴で、この粘性を利用して孔壁を抑え、崩落を防ぎます。
所定深度まで掘削後、鉄筋かごを取り付け、トレミー管を用いて孔内下部よりコンクリートを注入します。コンクリート注入後、口元管を引き抜き、施工完了です。
アースドリル工法は、掘削から杭打ちまでアースドリル掘削機一台で施工可能なため、狭い現場への適用性が高く、施工速度も速いです。
さいごに
今回は場所打ち杭の工法について解説しました。次回も引き続き杭打ち工事について、特に既製杭の工法を施工手順とともにご紹介します。
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