杭抜き工事は老朽化した建造物や構造物の撤去、土地の再利用において欠かせない工程です。しかし解体工事はできるだけ費用を抑えて済ませ、建築工事により多くの資金と工夫を凝らしたいと思うものです。今回は、蔑ろにされがちな解体工事、なかでも杭抜き工事の必要性および工法の種類をご紹介していきます。
杭抜き工事の必要性
現在、日本国内では解体工事件数が年々増加しており、国土交通省による平成27年度の調査では、解体・改造・補修工事件数は年間約73万~188万件と推計されています(厚生労働省ホームページ)。解体工事件数は今後も増加し続け、2028年頃にピークを迎えるとされています。これは、高度経済成長期に新設された多くの建造物や構造物が2020年頃から建設後50年を迎えるようになり、老朽化に伴う建造物・構造物解体のサイクルへと突入しているためです。
今後、都市・地域開発に伴い、建造物の増加やリニューアルが見込まれますが、土地の再利用にあたり必須となるのが解体工事です。日本ではほとんどの場合、軟弱地盤上に建築物を建てるために地中に杭を打ち込み、杭の支持力によって上部の建築物を支えています。 解体工事の際は、地中に打ち込まれた杭も引き抜き、土地を元の状態に戻します。
地盤内の杭まで抜く必要があるのかと思われがちですが、限られた土地を再利用していく上で、将来建設される建造物のためにも地盤をきれいな状態に戻すことが理想とされています。仮に地盤内に既存杭が残置されている場合、同一箇所に新たに杭を打つことができません。既存杭を抜くか、残置したまま既存杭の影響も考慮した上で新設工事の設計を行う必要があります。しかし、残置を繰り返せば土地のいたる箇所に既存杭が埋まっている状態になってしまい、新設工事が困難になります。そのため、解体サイクルを迎えている現在、適切な杭の引抜き工事を行うことがとても重要です。
杭抜き工法の種類
直接引抜き工法
直接引抜き工法とは、その名の通り重機を用いて杭を直接引き抜く方法です。
静的引抜き工法
静的引抜き工法では、油圧ジャッキや多滑車を使用して杭を引き抜きます。ワイヤーやチャックと呼ばれる爪のような機構で杭を掴み、油圧ジャッキの場合は押上げ力を利用して、多滑車の場合は滑車の回転を利用して杭を引き抜きます。
油圧ジャッキや多滑車を使用した静的引抜き工法は、比較的短い杭の引抜きに適した方法です。
バイブロハンマ引抜き工法
バイブロハンマ引抜き工法は、振動を利用して杭を抜きます。バイブロハンマと呼ばれる振動を発生させる機械を用いて、杭と周辺地盤の摩擦抵抗を低減させることで杭を引き抜きやすくします。
静的引抜き工法に比べ、より長い杭の引抜きに適用可能ですが、振動に伴う騒音が発生するため、住宅地などでの施工は困難とされています。
縁切り引抜き工法(ケーシング工法)
縁切り引抜き工法は、杭を囲うようにケーシングと呼ばれる筒を地盤内に挿入し、周辺地盤と杭の”縁を切って”から杭を引き抜く工法です。いきなり引き抜くのではなく、あらかじめ地盤の抵抗力を低減させてから杭抜きを行うため、より杭を引き抜きやすく、静的引抜き工法では困難だった杭の引抜きも可能となります。ただし、既存杭の曲がりが著しいとケーシングの挿入が難しいため適用不可となるケースもあります。
ケーシング縁切り引抜き工法(通称「輪投げ工法」)
通称、輪投げ工法と呼ばれるケーシング縁切り引抜き工法は、杭の外周を囲うようにケーシングを地盤に貫入し、地盤との摩擦抵抗力を弱めてから、杭にワイヤーを巻きつけて引き抜きます。
ケーシング縁切り引抜き工法(チャッキング工法)
分類としては輪投げ工法同様、ケーシング縁切り引抜き工法ですが、通称チャッキング工法と呼ばれる本工法では杭の引抜き方が異なります。チャッキング工法に使用するケーシングは、先端部がチャックと呼ばれる爪のような機構をしています。地盤内へケーシングを貫入させ、地盤との縁切りをした後、ケーシングを引き抜かずに杭の最深部をチャックで掴みます(チャッキング)。チャッキングした状態でケーシングを引き上げることで、ケーシング引上げと杭抜きを同時に行います。
バイブロ水ジェット縁切り引抜き工法
バイブロ水ジェット縁切り引抜き工法は、振動と高圧ジェット水の力を利用して縁切りを行います。鋼矢板(シートパイル)の先端に鋼管を取りつけたケーシングを杭に被せ、バイブロハンマの振動とケーシング先端部から排出する高圧ジェット水によって周辺地盤の抵抗を低減させ、杭にワイヤーを巻きつけて引き抜きます。
破砕撤去工法
破砕撤去工法は、直接引抜き工法や縁切り引抜き工法とは異なり、杭を引き抜くのではなく、切断あるいは砕いて粉々にした状態で取り除く方法です。破砕撤去工法は、施工現場が狭い場合など杭の引抜きが困難な場合に採用される工法です。
オールケーシング破砕撤去工法
オールケーシング破砕撤去工法は、ケーシングを回転させながら地盤内に挿入し、ハンマーグラブ(土砂の掘削などに用いられる機材。先端部が開閉する。)やチゼル(コンクリートや石材などの硬い素材を削ったり割ったりする機材)で破砕し、ハンマーグラブで掴み上げ撤去します。
二軸同軸オーガーケーシング破砕撤去工法
ケーシングの中にスクリュー(らせん状の溝がついた棒状の機材)が設置されている二軸同軸式の機材を用い、ケーシングとスクリューを同時に地盤内に貫入させながらケーシング内の杭を破砕し撤去します。
さいごに
杭抜き工事は土地の再利用や環境保護の観点からも重要な工程です。適切な工法を選ぶことで、その後の新築工事への悪影響を最小限に抑えることが可能です。当社では、杭抜き後の埋戻し技術を展開しています。環境保全を適える天然土による埋戻し技術「BFS工法」に関してより詳しく知りたい方は、事業内容をご覧ください。また、お問い合わせフォームからもお気軽にご連絡ください。