地盤改良や液状化対策としても採用される薬液注入工法ですが、今回は工法や薬液の種類など、その概要をご紹介していきます。
薬液注入工法とは?
薬液注入(chemical injection)工法とは、地盤に薬液を注入して固結させ、地盤の止水性や強度を高める工法です。地盤は土粒子と空気と水から成っていますが、薬液注入工法では、薬液を注入することで地盤内の空気や水といった間隙を追い出し、固結させることで地盤を補強します。
対象地盤も幅広く、粘土や砂質土、礫質土など、土質に合わせて薬液を選定、配合することで様々な地盤へ対応できます。
また、地盤改良の中では比較的設備が小型で、振動や騒音も少なく、短期間で施工可能なため、特に既設構造物周辺の地盤改良に多く使用されています。
非常に利便性の高い工法ですが、注意点もあります。薬液注入工法は、注入した薬液が設計範囲内に十分に浸透、固化することを前提としていますが、土質や地盤内の状況によっては設計範囲に既定量の薬液を注入しても未固結部分が残る可能性があります。こうした固結不良を防ぐために、薬液の注入速度を適切に管理することが重要です。
薬液注入工法の種類
二重管ストレーナー工法(単相式)
日本でもっとも一般的な薬液注入工法は、二重構造の注入管を使用する二重管ストレーナー工法です。二重管ストレーナー工法では、削孔に使用するボーリングロッドをそのまま注入管として使用し、薬液を注入していきます。
単相式の二重管ストレーナー工法は、ゲルタイム(薬液が固結するまでにかかる時間)が数秒から十数秒の瞬結性薬液を注入し、地盤を固めます。
二重管ストレーナー工法(複相式)
複相式の二重管ストレーナー工法も、単相式と同様、削孔に使用するボーリングロッドをそのまま注入管として使用し、薬液を注入していきます。
違いとしては、複相式では、瞬結性薬液と緩結性薬液を二重管の内外から別々に送ることで、2種類のゲルタイムを使い分けて効果的な薬液注入を可能にします。まず一次注入で数秒で固まる瞬結性薬液を注入し、注入管周りの地盤を固めることで、二次注入で使用する薬液が必要以上に拡散することを防ぎます。次に、二次注入で数分から十数分で固まる比較的ゲルタイムの長い薬液を使用することで、土粒子間に均等に薬液を浸透させます。そうすることにより、薬液と地盤が一体化し、水が通りにくくなるとともに土粒子間の結びつきが強くなります。
二重管ダブルパッカー工法
二重管ダブルパッカ―工法はTAM工法 (Tube-a-Manchette)と呼ばれ、欧米で主流の薬液注入工法です。二重管ストレーナー工法が削孔ボーリングロッドをそのまま注入管として使用するのに対し、この方法では、まずケーシング(鋼管)を用いて削孔し、シールグラウト(隙間や亀裂、ひび割れなどを埋めるために注入する薬液)で孔を保護してから薬液注入するため、二重管ストレーナー工法のように瞬結性薬液を用いて薬液の浸透範囲を限定する必要がありません。
二重管ダブルパッカー工法は手間とコストがかかるため、二重管ストレーナー工法ほど施工数は多くありませんが、非常に長いゲルタイムの薬液を土中の間隙へゆっくりと均質に浸透させるため、二重管ストレーナー工法に比べ、より効果が高いことが確認されています。日本でも、規模が大きく高い品質を求められる場合などには二重管ダブルパッカー工法が採用されています。
- 所定深度までケーシング(鋼管)で削孔する。
- ケーシングの中にシールグラウト(隙間や亀裂、ひび割れなどを埋めるために注入する薬液)を充填する。これにより、注入外管の周りの隙間はシールグラウトで固まり、注入材が必要以上に拡散することを防ぐ。
- 注入外管を挿入する。
- ケーシングを引き抜く。
- 注入外管の中にパッカー付きの内管を挿入し、一時注入としてCB(セメントベントナイト)液を注入し、地盤の均一化を図る。
※一次注入の前に、注入外管に設けられた注入孔より水を送り、シールグラウトに薬液の通り道をつけるクラッキングという作業を行う場合がある。 - 二次注入として非常にゲルタイムの長い溶液型の薬液を注入し、地盤中の間隙に浸透させる。
薬液の種類
薬液注入工法に使用される注入材は、おおまかに薬液系と非薬液系に分類されます。薬液系のなかでも、アクリルアミド系、尿素系、ウレタン系などの高分子系は薬液注入工法による建設工事の施工に関する暫定指針により使用が禁止されています。
溶液型と懸濁型
薬液注入工法に使用される薬液系注入材のうち、水ガラスは溶液型と懸濁型に分類されます。溶液型とは注入材中に粒子を含まないものであり、一方、懸濁型とは粒子を含む注入材です。
薬液注入工法は幅広い土質の地盤に施工可能ですが、対象地盤が砂質土の場合、地盤の透水性が高いため、薬液は土粒子中の間隙に浸透して固結する浸透注入という注入形態になります。その場合、できるだけ浸透性が高くなるよう粒子を含まない溶液型の薬液を使用します。
対象地盤が粘性土の場合、地盤の透水性が低いため、注入形態は割裂注入という、土中を割るようにして脈状に広がる形態をとります。脈状に固結した薬液部分と土のみの部分が混在するため、より大きな強度を期待できる懸濁型の薬液を使用します。
さいごに
今回は薬液の固結効果により地盤の止水性と強度を高める薬液注入工法について解説しました。今後、薬液の分類や特性、各工法のより細かなメカニズムなど、より詳細な内容で解説していきます。