2024年は、能登半島地震という大きな自然災害とともに幕開けとなりました。2011年の東日本大震災以来、液状化への対策意識が高まっていますが、今回の被害地、能登半島でも液状化対策の必要性が叫ばれています。地震大国日本において避けて通ることのできない課題である液状化対策について、今回は液状化防止、抑制に有効な地盤改良工法を紹介していきます。
液状化とは
液状化による道路の冠水
出典:市川市ホームページ
液状化とは、地震発生時に地中の水圧が上昇することで土粒子間の結合を弱め、泥水のようにドロドロになる現象です。
液状化の発生には以下のような条件があります。
①粒径が均一でゆるい砂地盤
②水で飽和した地盤
③大きな地震の発生
地盤は土、空気、水で構成されています。空気や水は、土粒子の間隙(すき間)に存在していますが、液状化の起こりやすい地盤において、この間隙は水で飽和しています。地震発生前は、土粒子同士がゆるいながらも結びつき、安定状態にあります。しかし、地震が生じることで地中の水圧が上昇し、安定状態にあった土粒子の結びつきが弱まります。結果、地盤は水と土に分離し、より重い土は沈み、軽い水は浮上します。
液状化対策に有効な地盤改良
液状化対策には、液状化の発生を防止、抑制する方法と、液状化が発生しても建物が損傷を受けないよう構造物的対策をとる方法の二つのアプローチがあります。本コラムでは、液状化の発生を防止するのに効果的な地盤改良工法について解説していきます。
締固め工法
振動締固め工法の施工手順
①ケーシングの挿入
②ケーシングを引き抜きながら先端から砂を排出
③ケーシングを打ち戻し、締め固める
④砂の排出と締固めを繰り返し、地上まで杭を築造
締固め工法とは、地盤を締め固めることで密度を増大させ、液状化発生条件の一つである地盤のゆるさを解消する工法です。締固め工法は、振動締固め工法と静的締固め工法の二種類に大別されます。
振動締固め工法は、棒状の振動機を地中に挿入し、振動させることで地盤を締め固める工法です。サンドコンパクションパイル工法はその代表です。地中にケーシングパイプを打ち込み、砂を圧入することで砂杭を造成します。打設時にパイプを振動させることで砂杭を締め固め、地盤の強度増幅を図ります。
東日本大震災の際、東京ディズニーランドでは、駐車場の一部は液状化しましたが、テーマパーク内では液状化被害はありませんでした。これは、テーマパーク内の建物がサンドコンパクションパイル工法で埋め立てされていたためです。地盤改良を行った土地とそうでない土地での液状化被害の差を如実に表す一例となりました。
静的締固め工法は、モルタル(砂と水とセメントを混合したもの)を地中に圧入し、固結させることで地盤を締め固める工法です。静的締固め工法は、機械を振動させないため、低振動、低騒音で、周辺地盤に与える影響が少なく、また、機材がコンパクトであることから狭い空間や既設構造物直下での施工が可能です。
固化工法
固化工法とは、軟弱地盤にセメント系や石灰系の固化材を混合し、土を固めることで地盤強度を増幅する工法です。代表的な工法として、浅層混合処理工法、深層混合処理工法、薬液注入工法などが挙げられます。
浅層混合処理工法は、表層改良工法とも呼ばれ、深さ2m以内の浅い層に存在する軟弱地盤の改良に適した工法です。セメント系固化剤と現地土を混ぜ、転圧し、セメントが水に反応して固くなる性質を利用して地盤を強固にします。掘削範囲が浅く、小型の重機で施工可能なため、コストを抑えられるのが特徴です。
深層混合処理工法は、柱状改良工法とも呼ばれ、深さ2~8mの層に存在する軟弱地盤の改良を目的とした工法です。浅層混合処理工法と深層混合処理工法は、改良深度ではなく、改良方法により区別されます。具体的には、浅層混合処理工法が面的改良であるのに対し、深層混合処理工法は別名、柱状改良工法とも呼ばれるように、柱状の地盤改良です。現地土にセメント系固化剤を混合し、地盤内に柱状の補強体を築造することで地盤を強固にします。施工費用が比較的安く、軟弱層が厚い地盤や支持層(強固な地盤)がない地盤にも施工できるといった利点から、戸建てや小規模な集合住宅の建築時に多く採用されるもっともポピュラーな地盤改良工法です。
薬液注入工法は、注入管を用いて地盤内へ薬液を注入し、地盤を固結させる工法です。地中に注入された薬液が凝固することで地盤を強化し、止水性を高めます。比較的小さな機械で施工可能なため、狭い土地への適用性が高く、また、振動や騒音が少ないのも特徴です。薬液注入工法では、建造物周囲から薬液を注入することが可能なため、既存住宅への施工も可能です。
置換工法
置換工法は、軟弱層の全面あるいは一部を掘削し、良質土に置き換えることで、地盤を改良する工法です。対象地盤を良質土に置き換えることで土質改善が可能ですが、対象地盤が広大であったり、深度が深いと、多くの置換材(良質土)が必要となり、費用と工期がかさむため、比較的浅い軟弱地層で、かつ置換土が容易に入手できる場合に用いられます。
地下水位低下工法
井戸方式
出典:国土交通省ホームページ
排水管方式
出典:国土交通省ホームページ
地下水位低下工法は、地盤中の地下水位を低下させることで、液状化発生条件の一つである「水で飽和した地盤」を改善し、液状化の発生を抑制します。地下水位低下の方法としては、ディープウェル工法やウェルポイント工法といった井戸方式と排水管を利用した排水管方式があります。地下水位低下工法はその性質上、透水性の高い砂質土地盤に適した工法です。
井戸方式は、対象地盤に井戸を設置し、ポンプで揚水することで地下水位を低下させる方法です。井戸方式には、ディープウェル工法やウェルポイント工法といった種類がありますが、ディープウェル工法は、ディープウェル(深井戸)を設置し、深井戸の地下水位と周辺水位の高低差により地下水を集め、ポンプで排水する工法です。ウェルポイント工法は、ウェルポイントという小さな井戸をカーテン状に多数設置し、真空吸引することで集水、排水する工法です。ウェルポイント工法は、真空吸引により集水、排水するため、比較的透水性の低い土質にも適用可能です。
排水管方式は、地中に集水性のある排水管を設置し、排水管へ地下水が浸透することで排水させる方法です。集めた地下水はポンプで汲み上げるか、自然流下で放水します。
間隙水圧消散工法
間隙水圧消散工法は、地盤内に透水性の高い排水柱を設けて、地震時に発生する過剰間隙水圧を消散させる工法です。地中に含まれる間隙水は、地震時の振動により水圧が上昇し、土粒子間の結びつきを弱めます。結果、地盤は泥水化、つまり液状化します。間隙水圧消散工法は、この間隙水圧の上昇を防ぐことで液状化抑制を実現する工法です。
間隙水圧消散工法の代表例であるグラベルドレーン工法は、過剰間隙水を砕石でできた透水性の高い杭(ドレーン)内に流入させ、排水距離を短縮させることで間隙水圧の上昇を抑制します。振動や騒音が少ないため、住宅地や既設構造物周辺での施工も可能な工法です。
せん断変形抑制工
出典:国土交通省ホームページ
せん断変形とは、長方形にせん断力が加わることで平行四辺形に変形することをいいます。大きな地震が発生すると、地盤はせん断力によって変形します。この変形によって間隙水圧は上昇し土粒子間の結びつきが弱まり、液状化を招きます。せん断変形抑制工は、こうした地盤の変形を防ぐことを目的とした工法です。代表的な工法に、格子状地盤改良工法と連続地中壁工法があります。
格子状地盤改良工法は、現地土とセメント系固化剤を混ぜて造成した円柱状の改良体を格子状に打ち込み、対象地盤を囲うことで液状化を防ぎます。軟弱で揺れに弱い地盤内に地中壁を作ることで振動による影響を受けにくくし、せん断変形を防止します。
連続地中壁工法には大きく分けて二種類あります。地中に溝を掘削し、鉄筋籠を挿入後、コンクリートを注入することで地中に連続した鉄筋コンクリート壁を構築する工法と、現地土とセメントミルク(セメントと水を混ぜたもの)を混合した改良土を柱状に連続して打設し、H鋼を芯材として挿入することでソイルセメント壁を造成する工法です。
せん断変形抑制工は、対象地盤を囲うよう地盤改良を行うことができるため、既存住宅の液状化防止にも適用できます。
さいごに
今回は、液状化対策に有効な地盤改良工法を基本原理をもとに分類し、ご紹介しました。各工法、液状化防止に対するアプローチ方法が異なるため、地盤改良を検討する際は、地盤の土質や土地の形状、状態など様々な要素を考慮に入れ、適切な工法を選択する必要があります。まずは地盤調査を行い、現状を把握することが何よりも重要です。